2010-12-21

【書評】「告白」(湊かなえ著)



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「告白」(湊かなえ著/双葉文庫)
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個人的には本書を批評するのはとても難しいです。できれば一言で「とても面白いよ」で済ませてしまいたいくらいです。

その理由は本書自身にあるというよりも、むしろそれを取り巻く環境にあるのかも知れません。

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まず簡単に本作を説明すると、ミステリー作家湊かなえのデビュー作にして代表作。売り上げ200万部を突破したメガヒットで、映画化もコミック化もされている作品。2009年の本屋大賞も受賞しています。

内容は一言でいうと子供を生徒に殺された中学生教師の復讐譚です。六章五人による独白形式で構成されています。

相当の話題作だったので読もうかどうか迷っていました。あるいは中島哲也監督作の映画版を観ようかなど色々考えていました。本屋大賞の受賞作ですし、もし日本に住んでいたらずっと前に読んでいたかも知れません。

しかし何となく食指が動かず読まないでいたら、知人がグアムに来たときに置いていってくれたので読むことにしました。

先述のとおりとても面白い本でした。すらすら読めました。でも本書の印象は事前に漠然と想い抱いていたものとはまったく異なっていました。

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超ベストセラーだけあって、本書の断片的情報は黙っていても少しは入っていました。聞こえてくる感想は「救いがない」とか「最悪の読後感」とか「どこまでも深い人間の心の闇」とかその種の言葉でした。

となるとどこまでドロドロした人間の業の深部まで踏み込んだ作品なのかと当然思ってしまいます。本書を開くにあたり、襟をただしちょっと気合を入れざるをえませんでした。

しかし蓋をあけてみればとんだ肩透かしでした。それは本書が面白くない、小説として問題があるということを言っているのではありません。むしろ技術的にはデビュー作とは思えない程の高水準ですし、繰り返し言っているとおり、なかなか吸引力のある面白い作品です。

でも全然人間の闇にも切り込んでいないし、絶望的な気分にもさせてくれません。むしろ「うまく設計したなあ」と感心させられました。

つまり本作はもともと人間の心の奥深くに入っていくための作品ではなく、様々な心理の吐露は本作をミステリーとして説得力を持たせるための部品でしかないのです。

著者はその部品作りはきちんとやっていると思います。欲をいえば主犯格の男の子の真の動機がステレオタイプで陳腐だとか、もう一人の犯人のお母さんの日記がちょっとご都合主義だということはあります(ただし日記の内容自体はなかなかいい)。

でもこの手のミステリーにおいてそういう粗は別に指摘する必要はありません。なぜならこれは心を掘るために書かれた作品ではないからです。そしてそういう粗はありながらも、それらは本作の部品としてはきちっと機能しているからです。

しかし多くの人が登場人物の心理に引っ掛かって恐ろしがったりしている状況に却って恐ろしさを感じたりするのです。

200万部超売れているということは普段あまり本を読まないリテラシーの低い人も読んでいるということではありますが、そういう人でも普段テレビなり映画なり見ているはずです。それでもあのラストを「救いがない」というのは普段どれだけ毒にも薬にもならない予定調和のものだけに接しているのか、ということです。

予定調和のエンターテイメントのカタルシスを否定するつもりはありませんが、それにしても本作の受け止められ方にどうしても違和感を感じ得ないのです。

もう一度いいますと湊かなえの「告白」はぐいぐい読ませる面白さがありますし、デビュー作とは思えない程技術的にもしっかりしています。「面白い?」と聞かれれば「面白いよ」と答えるでしょうし、お金を出して読んで損をさせられる本ではありません。

でもそれはミステリーとしての面白さです。たとえるならとてもよくできたお化け屋敷です。お化け屋敷に入ってギャーギャー叫ぶのは悪くありませんし、顔面蒼白になって出口にたどり着いて「もう二度とお化け屋敷なんて入らない」というのも正しい楽しみ方でしょう。

しかしお化け屋敷から出た後に「お化けはこれだけ恐ろしいものなんだ」と語っている人がいたらどうでしょう。

本書はお化け屋敷としてはおススメです。でも読み終わってから真剣にカブリもののお化けについてああでもない、こうでもないと語る愚を犯すことだけは避けて欲しいものです。


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