2010-11-17

スティーブを少し案ずる。




広告の仕事をしていたとき、色々な広告を見ながら「それは広告主の都合で消費者には関係ないのに」と思うような表現を目にすることがしばしばありました。

たとえば「業界初!驚異の新技術」というように謳っているのですが、あまり有難そうに見えないという種の広告です。

便利になったり安くなったり体験したことのないワクワクが得られたりするのだったらそういう技術も意味はありますが、単に技術的にスゴイというだけでは消費者にとってはほとんど意味がありません。

広告からは離れますが「ガラパゴス」と言われる日本の携帯電話の機能やアプリにもそういう企業側の事情が見え隠れするものが多いという印象があります。具体的にいうと「ゴルフで残りヤードがわかる機能付きのケイタイ」とか。

まあ中にはそういうものを有り難く思う人もいるかも知れませんが、ほとんどの人にとってはいらない機能ですよね。ゴルファーでさえホールごとに何かを入力してまで残りヤードを知る手間暇をかけたい人はどれだけいるのでしょうという疑問が湧いてしまいます。

これは開発側の思考方法に問題があるからなんではないかと思うわけです。技術者が何か新しい技術を開発する。その技術とにらめっこしながら「これで何か斬新なことができないでしょうか」「こんなのどうでしょう?」「それをこうしたらもっと受けるんじゃない?」などと開発マーケティングチームで喧々諤々して製品を作る。その場合の失敗例が「技術的にはスゴイがあまり喜ばれない製品」なのではないかと思うわけです。

そしてその対極を突っ走っていたのがアップル。よく言われるのはアップルは大した技術は持っていないし斬新な技術的成果はないということです。それでもマッキントッシュから始まりiMac、iPod、iPhone、iPadとアップルは市場に新しい価値をどんどん提供してきました。

これにはやはりスティーブ・ジョブスの力が大きいと思います。よく知られている話ですが彼はアップル社内では面倒くさいワンマンとされておりあまり評判がよくないようです。部下の苦労を知らないでギャアギャアいうだけというような。でもこれが少なくとも今のところは功を奏してきました。

私は2007年に初代iPhoneの発表会の映像を見たときにシビれてしまいました。その時最新でカッコいいとされていたBlackberryなどのスマートフォンを並べ「画面が小さくて見にくいし、キーボードがボコボコしていたデザインがカッコ悪い上に誰もこんな小さなキーボードで字を打ちたくない」とボロクソにこき下ろした上であのiPhoneが出てきたわけです。

アプリもダウンロードできるという斬新性もあり色々なデータが簡単に手持ちのPC/Macと同期できる。その上値段が信じられないくらいリーズナブル(もちろんATT&Tとの契約が前提というカラクリはありましたが)。

技術者がある一生懸命開発したものを「こんなのカッコ悪すぎ」といったり、購買が死ぬ気で原材料調達をしても「こんな高くちゃ売れない」とか一蹴にふしたら、そりゃスティーブも嫌われるでしょう。しかしそういうことをやってきたからガラパゴスとはまったく別の消費者にとって魅力的な製品を提供し続けることができたのでしょう。

それがスティーブのそしてアップルの魅力だと思ってきました。

が、昨日発表されたビートルズの全楽曲がitunesで買えることになったというニュースの告知はいかにもアップルらしくない。

簡単にいうと前日に「明日いつもと同じ一日が、忘れられない一日になる」というティーザーを流していたのです。これで世界中のアップルファンは「何事が起こるんだ」と指定の時刻をカウントダウンしながら発表を心待ちにしていました。

しかし発表の少し前から「どうやらビートルズのことらしい」という情報が確定しはじめると、Twitterの#appleのハッシュタグは失望と罵詈雑言でほぼ埋め尽くされました。

まああのティーザーで期待感を煽ったので注目を集めることができたという意味では普通の企業の広告戦略としては悪くないのかも知れません。

でもアップルは世界中のウォッチャーが彼らのことを研究し尽くしている中、時に誰もがあっと驚く経験を提供することでアップルたりえたわけです。人々の期待をはるかに下回る失望を与えてしまったらそれはアップルの存在意義にも関わる大きな問題です。

アップル社はビートルズのApple Corpと長年訴訟を抱えていましたし、音楽関係者の中でビートルズの権利問題をすべてクリアするというのは奇跡に難しいわけですから、個人的な趣味とあいまってスティーブの感慨もひとしおだったのでしょう。

しかしそういうのはすべて音楽業界の事情だったり、アップルないしスティーブの思い入れで消費者には関係のない話です。確かにビートルズは史上最高のポップミュージシャンですし、私にとっての音楽体験の原点でもっとも大切なアーティストのひとりです。

でもそれでも2010年の現在ビートルズで必要以上の大騒ぎをするのはやはり消費者不在です。50歳の人でさえ10歳のときにはビートルズは解散しているわけですから。

英語で件のティーザーは"Tomorrow is just another day. That you'll never forget"であり、これはビートルズ解散直後のポールのアルバムに入っていた"another day"という曲を受けているという人もいますが、もしそれが理由でそういうコピーになったのだとしたらそれこそ本末顛倒です。

まあ今回はたまたま勇み足でああなってしまったのかも知れませんが、それにしてもああいうキャンペーンをGoさせるとはちょっとスティーブが心配です。


what's "my wife's camera"?

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