2010-11-11

【書評】「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(岩崎夏海著)



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もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(岩崎夏海著/ダイヤモンド社)
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さて「書評」と銘打っていますが、本書私読んでません。Audiobookで聞きました。
現在オーディオブックを提供するFebe社がPodcastの新刊JPリスナーを対象に行っている半額返金キャンペーンをやっていたので、前々からなんとなく気になってはいたものの中々読む気にはなれなかった本書を購入しました。

今回「もしドラ」に関する書評はとてもサクっと行います。そしてその後にAudiobookについてお話をしたいと思います。

ではまず「もしドラ」について。ご存知の方も多いとは思いますが、出版不況の中150万部売れた超ベストセラー小説。
ある都立女子高生が野球部の女子マネージャーをすることになり、その勉強のためP.F.ドラッカーの「マネジメント」を読み、本来はビジネスに利用されるべきその手法を用いて野球部を甲子園に導こうとするものです。

まず始めに述べておきたいのは作者の岩崎夏海氏は男性であるということです。
これは私自身の偏見も露呈することになるのですが、個人的にはスポーツ小説はそのスポーツのことをきちんと理解していない人が書いているというだけで私は興ざめしてしまいます(もちろん女性作家が必ずしも理解していないということではなく「サクリファイス」を書かれた近藤史恵さんの文章は素晴らしいです)。本書も最初は著者名を聞いて私は女性の作家だと思っていました。企画自体は興味深いのですが、その作家にどこまで野球に対する造詣があるのかな、という偏見は正直ありました。

しかし読み進めて行くと「おっ、この女性作家存外わかってんじゃねえか」という気持ちになり、そしてAudiobookの巻末で著者自らが話しているのを聞き男性だと知りたまげたという経緯があります。

本来ならそのような偏見を持たずに作品に没頭すべきなのかも知れませんが、「野球もろくにやったことのねえ女が書いた高校野球小説だろ」と思って本書を手に取らない方がいるとしたらそれは杞憂です。

さてここで簡単に著者について触れると岩崎氏の本業は放送作家で、秋元康氏の門下にいる方のようです。後でAudiobookについてお話しするときにこのバックグラウンドも少し関係してくるので気に留めておいておいてください。

さて大事な内容について話しますと、一言で言えば完全な企画の勝利です。
この本を考えるとき三つの要素が重要になると考えます。

一つは「企画」、それから「構成」と「内容」。正直いいましょう、内容的には大人が読むレベルの小説の水準ではありません。突っ込みどころも満載だし(「女子マネージャー」というロールのみなみが野球部を「マネジメント」する正統性が付与されていないまま物語が進むのが最大の違和感)、そもそも内容自体がマンガレベルだ(ここでいうマンガは日本にある数々の素晴らしいマンガ作品のことではなく、揶揄としてのタームです)。

でもそれでも本作は十分に力強いのです。人によっては「荒唐無稽で大したことない話を、企画力だけで仕上げちゃったんだろ」という人もいるかも知れません。しかしそれは間違いです。そこには本書の構成力の見事さが落ちてしまっているからです。

本書の小説としてのストラクチャーは公式にあてはめて解析するなら百点満点です。 【ネタバレ注意】読者の少なからぬ人が一番共感を生むキャラクターを殺してしまうところも鑑みると嫌気がさすほど完璧です。

つまり本書は大したことない内容を企画力で形にした、と読むのではなく、卓越した企画をプロの計算され尽くした構成力で水準以上の作品に仕上げたと読むのが正解です。

そうでなければ150万部も売れるわけがありません。

というわけで本書の書評部分はこれまで。

続いてAudiobookという形態について少し述べたいと思います。
皆さんの中でAudiobookを利用されている方はさほど多くはないのではないでしょうか。しかしAudiobookはかなり使えるツールです。

それは一つには私がグアムに住んでおり、ほぼすべての移動が車になってしまったため読書時間が激減してしまったという個人的な事情もあります。でもそれ以外でも「チェックはしておきたいけど、読むなら後回し」という本は読書好きな方なら結構あるんじゃないですか。話題だし内容に興味はあるけれども、どうしても読みたい本というわけでもないというような本。

私にとって「もしドラ」はまさにそういう本でした。こういう本はAudiobookでやっつけるのが一番というのが私の結論です。

正直言って「もしドラ」でどういう漢字使いがされていて、カナの送り方がどうで、改行や余白がどうだなんてまったく気になりません。読書にはそういう体験もあるでしょうが、割り切った体験があってもいいと思います。

また耳から聴く利点もあります。たとえば東京に住んでいてあなたは通勤に45分かけているとしましょう。でもその内訳をみると駅までが徒歩6分、そこで1分間電車を待って、20分電車に乗って、乗り換えに3分歩いて、2分地下鉄を待って、12分地下鉄に乗って、2分かけて地上に出て、3分かけてビルについて、1分かけてエレベーターを使ってデスクに着くとします。
その間、本を読むことができるのはせいぜい途切れ途切れの30分。それがAudiobookだと45分間、ぶっ通しで聴くことができるのです。

さらに言うと私は英語の本でもこれを活用しています。前述の通り本を読む時間は就寝前くらいしかないのですが、英語の本を読もうとするとあっという間に寝てしまってなかなか本が進まない。それがAudiobookなら運転している間でもどんどん物語りは前に進んでいきます。

というわけでAudiobookをうまく利用することを皆さまにオススメしたいです。

ここで話をふたたび「もしドラ」に戻してます。
私が本書がAudiobookになると聞いたとき、AKB48の仲谷さんがナレーションを務めると聞いて嫌な気持ちになりました。グアムに住んでいるゆえ、AKB48のどなたの顔も存じ上げないのですが彼女たちが私たちの世代でいうところのおニャン子に匹敵する以上の人気があるということは伝え聞いていました。

Audiobookはそういう飛び道具を使わなくても十分有用なのに、そういう売り方をすると却って本来の価値が損なわれ正しいユーザーを獲得することができないと思ったからです。

そういうわけで私は制作者の意図に疑問を感じました。
しかしそこには私の早合点もあったということもちゃんと報告しておきます。

Audiobookのあとがきを聴けばわかるのですが、著者の岩崎氏は以前にAKB48と仕事をしていた間柄で、彼の指名によって仲谷さんが単独ナレーションをしたということでした。そして事実仲谷さんのキャラクターの演じわけは見事で、違和感なく最後まで楽しむことができました。

というわけで、好演の仲谷さんに何の罪もないのですが、それでも日本のAudiobookには改善されるべき点があります。それは値段です。新刊の値段はアメリカのものとさして変わりません。やはり長期にわたりナレーターを拘束して収録するわけですからコストはかかります。これについて文句をいうつもりはありません。

しかし旧刊のものの値段の日米差が激しすぎる。私はAudiobook事情に長けてはおりませんが、普通に考えればこれは出版社の取次店に対する配慮でしょう。電子書籍時代に本格的に突入した今、取次店は衰退産業だということは日の目を見るよりも明白です。

そろそろ日本の出版社もここから自由になってもらわないと、損をするのは私たち日本人です。


what's "my wife's camera"?

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