2010-10-22

【書評】「それでも日本人は戦争を選んだ」(加藤陽子著)




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それでも日本人は戦争を選んだ」(加藤陽子著/朝日出版社)
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たとえば尖閣諸島の問題でこじれにこじれて日本と中国が戦争に突入するということになったとしましょう。
そうしたら後世の教科書はそのことをどのように書くのでしょうかね。

「2010年9月、日本政府が尖閣諸島に不法接近した中国籍の漁船の船長を逮捕したことにより日中関係の緊張が高まり、20xx年△〇□事件を機に両国は戦争に突入した」というような感じでしょうか。

これを読んだ学生はどういう印象を受けるでしょう。
「日本政府はもっとうまい対応ができたのではないか」と思う人もいれば「勝手に領土に入り込んできた中国はとんでもない」という風に思う人もいるでしょう。「どんなことがあっても戦争は避けなければいけないのに」と悲嘆する人もいるかも知れません。

だけど、現実問題は実はもっともっと複雑ですよね。昨今色々な報道がされていますが、そもそも日本も中国も台湾も尖閣諸島を自らの領土とずっと主張してきたけれども、周恩来が大人の対応で日本の実効支配を認めた歴史があるとか、中国にとって釣島問題は日本との問題という以上に台湾との関係が大きい問題だとか。

さらにタイミング的なことをいうと日本は政権運営にまだ馴れていない民主党政権であり、その上代表戦の直後に起こった事件であるとか、国土交通省と外務省とでうまくバランスをとっていかなければいけないのに、事件が起きた日の国土交通大臣が事件処理の段階では外務大臣になっていたとか、村木厚生労働省局長の冤罪事件のあった直後だったから逮捕後も検察の判断とすることによって検察が政権に貸しをつくることができたとかそういうさまざまな状況がありました。

中国側でも未曾有の経済発展の傍ら大卒の就職率が6割程度しかないという深刻な雇用問題や経済格差による社会不安があったり、胡錦濤体制のガバナンスが効かなくなってきて軍部の台頭が著しいとか、せっかく中国から外交的シグナルをだしても日本政府が官僚との間に隔たりがあり中国外交プロトコルのリテラシーが低いためきちんと読み取ってもらえなかったり、沈静化に躍起になってもさらにリテラシーの低い日本のマスメディアが扇情的な報道で対立を煽ったりする現実があったりします。

経済的にはのっぴきならない相互依存関係にあるわけですから、当然衝突を避けようとする幾多の努力が行われているわけですが、それでも戦争になってしまうということもありえなくもありません。おそらくそれが戦争というものなのでしょう。

私たちはともすれば20世紀の戦争の多くは帝国主義的コンテクスト上にあって、戦争というのは一般的な外交ツールだったと思いがちですが、きっと過去の戦争も多かれ少なかれ様々な葛藤とか、避けがたい状況とかが重なった末に突入せざるを得なかったこともあっただろうというのは考えてみれば当たり前の話です。

++++

本書、「それでも日本人は戦争を選んだ」は東大の加藤陽子教授が、神奈川県屈指の進学校栄光学園で行った特別講義をまとめたものです。

タイトルからはじめはなんとなく感傷的な甘ったるいヒューマニズムよりの本かと想像していたのですが、読んでみたら全然違いました。日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、日中戦争、太平洋戦争の五つの戦争に突入せざるを得なかった理由を当時の社会状況や地勢状況をもとにさまざまな定量的、定性的データを使ってかなりクールに説明しているんです。そしてそれがむちゃくちゃ面白い。

特に当時の新聞記事やさまざまな人の日記にみる当時の社会情勢は私が勝手に思い込んでいたものとは大きく違ってある意味衝撃的でした。

そしてこの本は基本的には講義の文字おこしなので読みやすい。かなり難しいこともいっていて下手をすれば眠くなってしまいかねない内容なのですが、すっと入っていくことができました。

私自身日本史を専攻しなかったこともあり、恥ずかしいほど日本の歴史を知らないので本書と出会えたことが幸せでした。日本史を専攻していた人でも、多方面で国際関係が緊張感を増しいつどこで戦争がおきてしまうかわからないような時代になってしまった今、本書を読みどうして人は戦争の愚をおかしてしまうのかを考えてみるのは決して損にならないでしょう。

おすすめです。
最後にひとつだけ付け加えさせていただくと・・・


・・・栄光の生徒はアタマがいいなあ。


what's "my wife's camera"?

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