2010-08-21

ジモトの消えた日。


私には「ジモト」がない。現在グアムに住んでいるし、横浜にある家は生まれ育った場所ではないし、両親も昔から済んでいた「実家」にはもはや住んではいない。自分が生まれ育った生家から親が引っ越してしまって「実家」と呼べる場所がなくなってしまってい「ジモト」がなくなってしまったと感じてしまっている人も少なくないかも知れないが、私は自分の中で「ジモト」が消滅した時のことを覚えている。

それは横浜のジモトの中学へ行かず東京の私立中学へ行ったときのことでもなければ、小学校を過ごした家から引っ越したときのことでもない。それは1999年の7月7日のことだった。

私は小学校1年生から横浜の中でも郊外に属する二俣川と呼ばれる地区の新興住宅地に育った。地元の公立小学校へ通い、学校へ通うのが楽しくて仕方がない普通の小学生生活を送った。小学校の高学年になると塾にも通うようになり、中学受験を志すようになるがそれとて私の通っていた小学校ではとりわけ珍しいことでもなかった。

かくして私は中学受験を経て、都内の私立中学へ通うことになる。ジモトの友だちと離れ離れになってしまうのはとても寂しかったが、大変だった受験を無事乗り切った高揚感の方が高かったというのが正直な思いだったと思う。

そして次第に中学の生活に馴れていった。しかし私の中に常に「ジモトは二俣川」という思いがあった。だから「小学校の同窓会が開かれないかなあ」などと思う気持ちは常に心のなかにあった。ただ私の通っていた小学校の卒業生はほぼ全員が同じ中学へ進学していた。そうすると小学校に対するノスタルジーは彼らの中で生まれない。だからついに同窓会は開かれることはなかった。
高校へ進むとさすがに進学先はいくつかに分かれるのでノスタルジーなども生じたようだが、そのとき開かれる同窓会は小学校のものではなく中学校のものだった。

というわけで同窓会なるものは一回も開かれなかった、もしくは呼ばれなかったけれども私の中のジモトは常に二俣川だった。

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小学校のときに親友と呼んでいた友だちがいた。Kくんと私は常に一緒にいて色々なことを話した。Kくんは学級委員も務めるような聡明で人気のあった少年だったが、特に中学受験には関心を示さず地元の中学校へ進学した。

同窓会も開かれない中、私の中のジモトとのつながりはKくんだけだった。とはいっても別に頻繁に連絡を取り合っていたわけでもない。せいざい年賀状を交換していた程度だ。私が中学2年のときに横浜の別の地域に引っ越した後、一度だけ二人でボーリングに出かけた。それきりだった。

それが何を思ったか高校2年生の夏、Kくんの誕生日に私は彼にバースデーコールをしようと思い立った。もちろん昔からの友だちも大切にしたいという思いはあったが、私のジモトへの唯一のライフラインともいえるKくんとの関係が完全に切れてしまうのが怖かったという思いもあったかも知れない。ひょっとしたらそれ以外にも何かに思い悩んでいたのかも知れない。とにかく私はKくんの誕生日、7月7日に彼に電話を掛けた。

恐らく2,3年ぶりに連絡をとったのだから不自然な電話であったに違いない。私が「誕生日おめでとう」というと彼は電話線の向こうではにかみながら「ありがとう」とはいったものの明らかに戸惑っているのが感じ取れた。それでも私は何かを取り戻すべく会話を進めた。

そのかいあってかしばらくすると会話は自然となっていった。そして話題は高校二年の夏にふさわしく受験の話になっていった。話が受験に及ぶとKくんはどこか卑屈になったように感じられた。やけに卑下するような話しぶりだった。それは私が有名進学校に通っていたからだろうとすぐにわかった。でも私はKくんにそんな態度をとって欲しくなかった。受験校にいたとはいえ、私自身はといえば部活と女の子を追いかけるのに夢中で勉強などまったくしていなかったし、もし仮に私が現役で東大に入ってしまうようなエリート受験生であってもそういう態度をとって欲しくなかった。

Kくんと私はいつも一緒にいて放送委員会で好き勝手な曲を給食の時間中にかけたり、下級生を驚かすいたずらをしたり、馬鹿なことからまじめなことまで語り合った親友だった。片方の成績がいいとか悪いとかを気にするような間柄ではないはずだった。

私は一生懸命昔の関係を取り戻そうと試みた。バカ話ができる気軽さを求めてがんばった。それでも小学校卒業以来、五年の月日は僕らの関係の中の致命的なものを損なってしまったようだった。

最後はKくんの方から電話を切ったのだったと思う。
そして私は永遠に地元を失ってしまった。

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今日聴いていたPodcastのテーマが「地方からジモト-若者文化のいまむかし」だった。
「ジモト」という言葉を耳にして、久方ぶりになくしたジモトを思った。

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