2010-08-05

女子禁制



「女性専用」というものに比べて「男性専用」というものは極端に少ない気がする。
「女性専用車両」「女性専用フィットネス」「女性割引」「女性限定」「レディースデー」・・・。
挙げれば切りがない。それに比して男子専用というといわゆる男子校くらいしかないのではないだろうか。

まあそれは極端な男性社会の中でフェミニズムが台頭する際におきた過渡期的歪みだろうし、別にそれを目くじらを立てて「逆差別だ」などと糾弾するつもりはまったくない。でももう少し「男性専用」というものがあってもいいのではないかとも思う。なぜなら「女子禁制」は楽しいのだ。

かつて「女子禁制」のスポーツクラブがあった。「かつて」といってもそんなに前の話でもない。2004年まで東京のど真ん中にありながら閑静な地域にあったジムがある。

私がそのジムの存在を聞いたのは2000年頃のことだった。運動をすることが好きでいながらしばらく体を動かしていなかった時期に近所に住む友人Dong Luから聞いた。しかし都心の真ん中にある古くからある会員制のジムと聞き、少し尻込みした。当時仕事は広告制作プロダクションという低賃金超労働の典型のような職業。わけあって都心の真ん中に住んでいたものの家賃の大半は自分では払っていない状態。外資系金融会社に勤めるLuに思わず尋ねた。
「オレでも入れるの?」

聞けば月会費は1万2千円くらい。安いという方ではないが、タオルもウェアも靴も貸してくれて手ぶらでいけることを考えれば、大手チェーンの同様のプランの値段と変わりがない。何より徒歩1分のところにあったのは魅力的だった。

私はすぐに入会した。入会して色々なことがわかった。そこは1965年に設立された都内でも老舗のジムであったということ。1965年当時はジムに通う人などほとんどいなく、まして女性でジムに通う人などいなかったということ。結果として男性専用となり、女性がジムへ通う時代になっても設備の関係でそのまま男性専科のままでいたこと。当時ジムに通う人はある程度意識と収入が高い人で、土地柄もあって大企業の重役やスポーツ選手、大物芸能人もかつては通っていたということなど。

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最新のチェーン店のジムに比べると設備も古くどこか薄汚れている。それでもそのジムは何ともいえない味わいがあった。まず第一に通っている人が真面目に体を鍛えていた。私は当時30そこそこだったろうか。酒にまみれた生活を送ってはいたものの、学生時代は運動部に所属していたこともあり体力にはそこそこ自信はあった。しかし、そこで毎日トレーニングをしている五十代、六十代の先達の方が私よりもずっとパワフルだった。
かといって、ボディービルダーの集まりのような雰囲気でもない。こじんまりとしたジムだけあって極めてアットホームな雰囲気で、そこにいる人同士が名前を知らなくてもお互い世間話をするような空気に包まれていた。それが大企業の重役であっても、歌舞伎界の重鎮であっても、有名俳優であっても、現役の体育会の学生であっても、そして私のようなしがない会社員であってもお互い顔見知りになり、わけ隔てなく話すような環境だった。

ロッカールームはさながら男子校の部室だった。いい歳した大の大人が真剣に下ネタをいってゲラゲラ笑ったり。野球の采配に文句つけたり。

女性は「男の人だけ集まってどんな悪巧みしてるの」と思うかも知れない。でも、男はそんなに大層なものでもない。「永遠の少年」なんていいものでもない。みんな「永遠のガキ」なのだ。自分を取り巻く体面、社会的立場から開放されるとどんなに日ごろ偉そうなことをいってもシカめっ面を決め込んでいても、そこいらの中学生の男子とまったく変わらなくなってしまう。

でもそこに女性の視線が入ってしまうと浅はかな男どもは途端にポーズを作ってしまう。無邪気なホモソーシャルな空気が一気に崩れてしまう。部室のきゃっきゃっ感がなくなってしまう。なぜなら男が一番体面を気にしてしまうのは女性の前だからだ。

だからキャバクラやクラブというような普通の女性が入り込まないようなところではだめなのだ。そこにお店の女の子がいる限り。

女性とて色々な体面で疲れてもいるだろう。でも女性しかいないエステなどへ行って、それなりに発散することもできる。でも性質の悪いことに男性は女性よりも体面を気にする。その男性に解放されているホモソーシャルなクラブがないのは社会的にみてもあまりよろしくないと思うのは私だけだろうか。

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私の中で「伝説のジム」と化しているそのフィットネスセンターは「クラークハッチ」といった。先述のとおり、2004年か2005年だかに東京支店は閉じてしまった。

クラークハッチが閉まった後、私はしばらくどこのジムにもいかなかった。

そうこうしているうちにグアムへくることに決まった。
グアムにはクラークハッチの支店があった。マリオットホテルの中にあり、もちろん男性専用ではない。それでも東京のハッチがあった頃から顔見知りののマネージャーがいて、どことなく私の知っているハッチと繋がっているという感覚があった。

そのクラークハッチ、グアム店が6月の末で閉店した。今もまだ同じ場所にジムはあり私もそこに通っている。
それでも私の中の何かが終わってしまったという感覚は拭えない。


部室の高笑いが遠い。

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